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 林蔵、奥の道未知!をいく

 江戸時代の探検家、間宮林蔵を題材とした小説です。

その五

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その五

すでに、11代将軍、徳川家斉の義父で、現藩主島津斉興の祖父重豪は89歳の大往生をとげていたが、ここはかなり藩財政が逼迫しているし、南の琉球はもちろん、清国や南の呂栄(ルソン)から南洋の珍品をとりよせているようである。

 一度、疑い出したらどうにもとまらない!林蔵は、城下町の浜田に入り、ひっそりと調査を始めた。とは言っても、なかなかわからなかったが、椰子の実を災難除けに飾っている家がかなりあるということ、それらは松原浦の舟乗りから買い求めているという噂を耳にした。
  また、舟乗りの一部の肌が真っ黒というのも耳にした。山陰地方の領地で、周りの人が白いから、特に目立つようであった。ということは、浜田藩の商人の舟乗りが、直接、南まで行っているのかもしれない。そして、松原浦にはかなり大きな船が出入りしているという話も粘っていくうちにつきとめた。ここの回船問屋の持船であるという。

 林蔵はこれらの情報を入手すると、すぐに南ヘと向かった。ここから舟に乗ろうと思ったが、なんだか、隠密であると怪しまれた気もしたので、陸路を急いだ。
 萩を過ぎ、馬関(下関)の手前の千崎から舟で九州に渡り、ホッとすると小倉城の近くで宿をとった。
 
 いよいよ九州か!と思った。しかし、今回は長崎でなく、めざすは薩摩である。
 足を進め、急いだ。熊本城下で馬刺しを食い、俺は狗でなく馬だ!急ぐぞと気合を入れ、八代もすぎ、水俣をすぎ南へ向かう。ついに、薩摩藩領である。野間関という関所が国境にあり、ここがどの藩に比べても入国者に対する取調べが厳しかった。

 林蔵は、待たされると、順番になって冠り物の笠をとり、面番所に行って頭を下げ、手形を渡した。すごく長い時間のように感じだれる。ここでばれて殺されるかもしれない、いや入国してから密かに処分されるかもしれんな!と思うと、一瞬身体が震えそうになる。でもついにここまで来たのだ!そう主って気丈にふるまおうとした。
 「江戸からどうやって来たか」と強い独特の薩摩なまりの声で、大きな役人が声をかけた。
 「北国から旅をして参りました。余生の名残に句を詠んで旅をしています」とゆっくりと答えた。
 役人は再び上の間にもどり、他の役人と言葉をかわした。林蔵にも聞こえたが、江戸で薩摩言葉を多少、覚えたはずだが、何を話しているのか、ひどいなまりでさっぱりわからない。不安になりながらじっと待った。こんな時は、句を読むに限る、なんたって俺は俳諧師だからな、と思って、句を考えるが、恐怖であろうか。なかなか、詠めない。
  いざという、時にいい句が、詠めんもの、こんな思いで、待って疲れた、
と詠んだが、どうも、詠んで悲しい気持ちになった。

 すると、役人が林蔵に向かっていった。
 「よし、通れ!」
 手形を受けとり、頭を下げると門を出た。あっさり、入国できて良かったが、あまりにあっさりしていて、拍子抜けしたような気もしてきた。隠密が来て何を調べようが勝手にしろ!という態度にまで感じられた。

 とにかくここでは急ぐなよ!と自分に言いきかせる。簡単に入国できたからか、逆に誰かに見られているような気までしてきて、ゆっくりゆっくりと、56歳の年寄りらしく歩くことに努めながら進んだ。
 やがて海岸に出るとゆっくりと、海岸線を歩きまわることにした。ここではどうやら何かを言っているが、同じ日本人だが地元の人同士の会話は早くてさっぱりわからない、蝦夷のアイヌの方がよっぽどよくわかった。ならば、むしろ海岸にどんな舟があるか見てみようと思う。歩けば各地に日本の舟とは違う形状の船が堂々と泊まっていた。唐船かなと林蔵は思った。ここは九州の最南端、いくらでも抜け荷ができそうだな!と林蔵は感じた。
 はっきりとは確証はないが、すぐ南に種子島と屋久島もある。もっとも舟は清国でなく、南の琉球の船かもしれないから、わからないが。俺たち隠密もさすがに琉球まで入れないし、薩摩での隠密活動は無理だ、ここでの成果はあきらめ、浜田藩でのことをすぐに伝えねば、と思った。

 鹿児島城下について、お城を見ると大藩にもかかわらず意外にも小さなお城である。鹿児島の港から舟に乗ろうと思った。陸路ではさすがにつかれるし、また、56歳という年齢からも舟でゆっくり帰る方が自然だと思った。城下を歩いたが、薩摩の武士は、みな身体が大きく、がっちりしているように感じられた。
 剣術の他、琉球から伝わった空手が盛んであることは、もともと林蔵も知っていたが、一撃で殺されそうな気までしてきて、そう思うと林蔵は恐怖を感じた。下手に怪しまれるとやばい。ここはおとなしく去ろうと、城下の宿で芋焼酎に地元の黒豚で一杯やりながら、宮崎行きの船を待つことにした。
 ただ、何もせずに、のこのこ去るのも悔しいと思ったので、何かここに入り込んだ証を残したい、そんな気がして、またお城に行ってみようと思った。すると、翌日、急に城下のそばを歩いたら、腹部に今まで体験したことのない非常な痛みと便意を感じた。やばい、黒豚が、あたったか、厠に行きたい。苦しい、苦しい、漏れそう!
 目の前はお城だ、ダメもとで厠は当然ある!厠を借りようと、ヤケ糞、そうだ、出そうだ、やばい、お城にむかった。
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作者:福田純也
福田純也
性別:男性
男性

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