やがて、夜になり、林蔵は、そのまま商家に泊まる一茶と別れ、またいつか再会しましょうと言って、主人にも礼を述べると、足取りも快調に家に戻った。
帰路、林蔵は、小林一茶も満足そうであり、会って良かったと思った。あの人はもう50に近づき、隠居して俳諧を極める。俺にはそんな芸はない。でも俺も、幕府のため、俺なりの奥を極めたい。
下手に妻を娶って家を持つと、昔、択捉で自害した戸田文太夫のように現状維持というか、変に保身を考えて、ことなかれ主義から結局、悲劇な最期をとげることもありそうな気もした。でも、一茶先生の言うとおり、蝦夷地の松前から北に進んだだけでさえ奥地と思う中、樺太よりも更に奥だなんて、俺以外、思っていないだろうな。それに、本当に男が奥まで追い求めるのはやはり、奥様、女かもしれんな。でも、俺には幕命がある。それと、先生が西国の話をされたが、松山は四国、長崎は九州、いつか、幕命でも行ってみたいな、特に、長崎や対馬とか、やはり、異国人がいるなら、交流してみたいけど、他にも役人がいるから、やはり無理かな、と思ったりもした。そして、再び、俺も50で隠居して、ずっと元気で足腰が丈夫だったら、妻を娶りたい、と思いながら足を進めると、あっという間に家に着いた。部屋に入ると、疲れもたまっていたようで、すぐに眠った。