そんなことを思い続けた林蔵は、景保が何を欲しているかをなるべくゆっくりと思い出してみた。やはり、日本人が誰も行けなかった樺太東海岸の図面ではな いか!もしかしたら、西洋ではロシア艦が樺太の東海岸の沿岸を通っているから、我らとは逆で東海岸の作図はもうとっくにできているだろう。彼らは樺太が大陸とつながっていると思い、アムール河付近や西海岸は調べていない。
だが、大きな船の通れる東側(外海)はオホーツクから、エトロフまであのロシアのゴロウニンも言っていたが、航路があるわけだから、艦で測量をしている かもしれぬ。それに天候がわるく日本の小さな舟ではとても無理だし、陸路も困難で日本人は誰もあそこには行かないから、ちゃっかりロシア人が測量しても気 づかないわけだ。
それにロシアが測量した東側の地図はヨーロッパではもうヨーロッパ中にあるのかもしれない。イギリス船も捕鯨目的で何度も日本近海に来ているし、オランダ人なら当然、持っているかもしれないだろう。