林蔵が、自分が、12月末日に江戸を出立したことをつげると、貞助は、昨年夏に江戸にいって、伊能忠敬の家で会ったことなどを、なつかしそうに言った。
「伊能様は11月末、九州へ出立されました。もう67歳なのに、元気ですよ、すごいですね」といった会話から始まると、やがてロシアのゴロブニンのことなどを聞き始めた。
「すでにロシア語を習得されているようですね」と林蔵が言うと、いえいえ、アイヌ語の通詞、上原熊次郎がロシア語もやっていて、私はその助手にもまだまだとても、無理ですよ、と謙遜して答えた。
貞助と熊次郎の2人につれてもらって、大きな建物に招いてもらうことになり、いよいよロシア人と林蔵もあることになると、彼自身、興奮してきた。武者震いをしている。ロシア人は六尺のでかい人間というけど、どんな奴かな!と思う。