林蔵は、夕方までぼんやりとしながら、天井を見つめ床についていた。女か、、、、。もう大久保様も亡くなったし、こんどこそ、もう諸国をまわるのもおわりかもしれんな。俺の故郷にも、もう両親もいない。墓だけは立派だが、あそこにいても誰もいない。この江戸でゆっくりと余生をすごせというのは、天命かもしれない。
俳諧師の小林一茶殿は、隠居後、江戸を引き上げたが、俺はここで余生かな。もっとも、江戸ではまだなんだかんだ言って必要とされているみたいだし、いかにして俺を慕ってくれる若い人に伝えていくかな、と考えた。
夕方になって水守は、医者と薬箱を持った供の者をつれて再びやってきた。
医師は枕もとに座り、半身を起こした林蔵に症状をたずね、脈をとり、身体にできた赤い発疹をしらべると、
「これは湿毒ですな」というと、早速薬を調合し、まもなく帰っていった。
医者が帰ってからほぼ入れ違いのように、おりきがやってきた。40歳というが、30くらいにしかみえず、身体は、林蔵より少し大きかった。まだ水守は残って、林蔵と地図のことを話しているところで日は沈んでいなかったので林蔵も寝床から半身おこしたまま、おりきを見つめた。