キチーに着くと、行きにお世話になった酋長のチオーと会い、歓待してもらった。林蔵が持参した道具や服をおくると、喜んで笑みを浮かべた。
コーニたちは当初、ここからは行きと同じようにキチー湖に入って、山越えをして東韃靼の海岸にでる、いわば行きと同じ道をたどろうとしていた。いつも、彼らはそれに慣れているし、アムールは河は長くすぐに河口につかないと知っているから当然だった。しかし、今回は、林蔵にとってたぶん最初で最後のアムール河というより、この東韃靼への旅だ。それに、また山越えするのに、山にのぼるのも何かしんどい気がしていた。デレンまで気を張っていたのが、少しほっとしたあと、つかれがどっとでたのかも知れない。それで何とか、コーニにお願いしたら、幸い今はまだ川は凍る時期でもないから河口まで、舟で行こう、と言ってくれた。コーニも、山越えする気がなかったというか、いつもとちがう旅だったから、疲れがあったようである。