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 林蔵、奥の道未知!をいく

 江戸時代の探検家、間宮林蔵を題材とした小説です。

その八

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その八

「ええ、どうも異人というのは信じられません。あいつら測量といって、千島を少しずつとろうとしていますよ」と林蔵は言った。

 「もう、それはないと思いますよ。むしろ、日本と貿易したいのではないでしょうか。オランダも、バタビア(インドネシア)を自国の領土にしてしまっているけど、長崎で日本のもの(うるしや醤油)を輸出して欧州中に売ってるように、ロシアも北からそれがしたいのではないでしょうか」貞助は、冷静に答えた。

 「たしかに交易もしたいでしょうけど、すぐ目の前にロシアの広い領土があると思うとやはりこわいです。西の都からたくさん船団を運ばれたりするかもしれない。自分は日本は戦で負けない!と奴らに言いましたけど、択捉島でのこともあるし、逃げた武士がいっぱいいて頭にきました。ああでも言わないと、よけいなめてかかってきますからね」と言うと、貞助と別れて、控え室にもどり、スパスパと煙草を吸い、くそ!、ロシア人め、俺たちをなめんなよ!と、いらいらしながら煙草をずっと吸い続けた。

 林蔵は怒りながらも、、オホーツクまで日本のちっぽけな和船では絶対無理だな、とも思う。それに冬にはとてもいけない。択捉でのことを思うと、やはり、日本は守り勝つしかない。択捉での苦い悔しい体験をしただけに、またくそ!と思い出した。

 ただ、ロシアも日本のことをまだきちんと知らないようだし、弱いと思われないよう、虚勢でもいいから張らないといけない。そうでないと、今度はロシア政府が直々に日本への海賊行為を許しそうだ、と一人、思った。


 2月13日、松前奉行荒尾但馬守のもとに江戸から下知状が届いた。

 ゴロブニンたちの釈放は許されず、ロシア艦が来航した折には、ただちに打ち払えという強硬な内容であった。

 ところが松前の奉行は、立派なロシア艦を実際見ているせいもあったし、またゴロブニンたちの態度も友好的なせいか、情が入っていて、いけない。何をそんなに気を使って、恐れているんだ!林蔵は、江戸の幕府と同じ考えであった。

 だが、但馬守は本当に同情的で、ゴロブニンたちを上級役人の住んでいた大きな屋敷に移した。食事も上質で酒もでたし、屋敷には築山も池もある庭があり、そこへも林蔵は足を運んだ。

但馬守様は、ロシアの船の報復を恐れているのだろうか。それとも、ゴロブニンたちから何かロシアの情報を得ようと懐柔策をとっているのかな、林蔵は考えながらも、それをずっと身分の高い相手に尋ねるわけにもいかず、日は過ぎていった。


 そして、3月24日(現代の5月上旬)、蝦夷地にも蝦夷桜が綺麗に咲いて、もう葉桜になりそうな頃、ゴロブニンたち6人のロシア人が収容されていた家から脱走したという知らせが入ってきた。もう春とはいえ、まだ寒い夜、家の周囲の塀の土を掘って準備していたみたいである。

 ゴロブニンたちは脱走してどこへ逃げるのだろう。それにどうして、脱走なぞ、聞いた林蔵も、一瞬、耳を疑った。食事などの待遇は長くなっているし、幕府からの返答に対してがっかりしたのだろうか。

 林蔵の想像は当たっていた。脱走に加わらなかったロシア人ムール少尉と通詞のアイヌ人アレクセイに吟味をおこなったところ、彼らは以前から帰りたがっていてなんとか脱走したいと思っていた。

 幕府から釈放はしないという知らせも入り、しかも、ロシア船が浜に見えたら打払いになるかもしれない。ならば、脱走してなんとか、人気のない浜まで行き、小舟に乗って脱走を考えていたようであった。

 結局、脱走して、松前の北方約10里(40km)の集落まで行っていた。津軽藩兵が巡回していて、彼らを捕まえると、また縛られて、松前に運ばれていった。

 次は松前の町の牢屋に閉じ込められて、食事も粗末なものとなった。まさに名前の通り、ご牢人復活であった。

 林蔵は、彼らが捕まったことを知り、ほっとした。が、やはり不思議な気がした。ここが蝦夷地と言っても、北辺の宗谷でもなければ、東の根室でもない。

何でたった2週間でみつけられるような脱走、バカな奴らだな、と思いながら、何か深い情報を、実は、松前の港近くに停泊しているロシア船にでも伝えるためにやったのかな!と、改めて考えた。

 思えば、ロシアの軍艦が来襲したのは最近のことだが、日本の民間との密貿易は以前からこっそりと日本人も含めるとやっている可能性もある。彼らに脱走をそそのかしたのは誰か?
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プロフィール

作者:福田純也
福田純也
性別:男性
男性

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