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 林蔵、奥の道未知!をいく

 江戸時代の探検家、間宮林蔵を題材とした小説です。

その六

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その六

「私の場合、旅の道中、路銀が足りず、酒も安酒をたまに飲むことしかできないこともございましたけど、もっと無かったのは、女です。私は、もう少しで50になり、もはや老人です。
されど、まだ、妻帯もしていないのです。旅をする、そして、月を見ながら酒を飲むのも良いですが、花のような香りを求めるには、やはり女です」と一茶はきっぱりと言った。

 林蔵は、その言葉を聞き、少し笑みを浮かべて尋ねた。
「できたら、若い女性ですか」

 「別に、すごく若くなくてもいいのです。私は林蔵殿と違い、すでに五十に手が届きそうですから、こんなことを思うのでしょうけど。小さい頃、実母がすぐになくなりまして、継母がきたのですが、懐けないうちに腹違いの弟が生まれました。すると、よけい、折り合いが悪くなりまして、15の時に、江戸の商家へ奉公に出されました。それから、ひたすら、働き、そして、俳諧も商家の番頭さん等、好きな方がいたこともあって、習いだしました。それから、縁があって、俳諧の修行もあり、西国へ旅をしました。

 でも、道中、一人、さびしくつらい時もありましたね。昔、詠んだ歌で、初夢に、古郷(ふるさと)を見て、涙かなというのは、今も、深く心に残っています。必死に句を詠んでいるうちに気づけば、もうこの歳です。お恥ずかしながら、俳諧で名をそこそこ上げましたが、あいかわらず貧乏なため、このお店の主人などいろんな方に食わしてもらってきたように思います。
 ただ、腹違いの義弟がいまして、このたび亡父の遺産の相続をめぐって長く話し合っていましたが、やっと一部財産を相続してくれるようになりましたので、もう少ししたら、故郷に帰ってのんびりしたいと思います。間宮殿も農家の出と、松田様より伺いましたが、ご兄弟はおられるのでしょうか?」

 林蔵は答える「いいえ、私は一人っ子なのです。幸い両親は健在ですが、小さい頃、実家の近くの川に測量に来ていた方にかわいがられ、それから、その方の弟子となり、蝦夷地に行き、ついには樺太にも行けました。樺太に2度行きましたが、幸い、ロシアの軍艦は樺太には来ていないようでしたし、もう自分も凍傷にもなったし、引退して、別の方がいるだろうと思っていたのですが、このたび、一生無役ということで、幸いご公儀から評価してもらいました。それで、百姓はやれないから両親には不孝息子だったかもしれませんが、ここまで出世できたのですし、できる限りご公儀に使えることで、親孝行となれば、と思います」

「ご公儀からそれだけ評価を受けたということは、すばらしいです。それと、幕閣の方も北方への関心が高いのかもしれないですね。まだ、林蔵殿は30代、まだまだ頑張ってもらわねば。でも、妻帯も考えましょう。歳をとってくると、きっとそのことを後悔する日が来ると思います。これからは、また、蝦夷の方を中心にご活動の予定でしょうか?」

 「いえいえ、こればかりはまたどうなることやら、、、。ただ、蝦夷地や北辺でロシアがまた来航となれば、絶対行くことになるでしょうね。それにしても、一茶先生も、旅をして俳諧を極めることに人生をかなりかけられていたと、松田伝十郎様から伺いましたけど、私にはそこまでは無理ですね。かなりの歌や句を詠まれたのでしょう」

 「はい、最初は、下手な鉄砲も何とやらで、詠みまくりました、そうこういっているうちに、すでに一万句以上です。でも、満足していないです」と一茶はまたふっと煙管に手をやって答えた。

 「それは何ですか?、妻帯すると、もっといい句が詠めるかもということでしょうか」先ほどの一茶の言葉から、林蔵は察した。

「さすが、間宮殿、よくお分かりです。人それぞれですが、私自身、妻帯で俳諧が変わるような気がしています。樺太も蝦夷地の北、その北部になれば、まさに奥ですが、私にとっては、奥とは、妻を娶り、奥まで突き貫くことです。まさに奥様、というわけではないですけど」

 林蔵は思わず、笑って、「ハッハハ、一茶先生、私もいずれ妻帯したいものです。今も、幕臣という舟に乗りかかってまだ途中、荒れた海上にいるような感じ。まだ、舟を降りて妻探しとはいきませんが。あと、万が一、ご公儀から縁談を勧められたら、家を継ぐというために、好き嫌い問わず、結婚となるでしょうけど。でも、今まで蝦夷地、樺太と奥に行き、まだこれからもロシアという不気味な相手がいる限り、私に縁談を勧めるよりも、公儀にはもっともっと蝦夷地に力を入れてほしいと思います」ときっぱりと答えた。

 二人は、その後も、酒食をしながらにぎやかに話を続けた。
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プロフィール

作者:福田純也
福田純也
性別:男性
男性

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