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 林蔵、奥の道未知!をいく

 江戸時代の探検家、間宮林蔵を題材とした小説です。

その八

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コメント

1. 無題

林蔵は逞しいですね!
この後の行動がどのようなものなのかとても楽しみです!

会話の中にそれぞれの思惑があり、登場人物に魅力を感じます。

ただいまコメントを受けつけておりません。

その八

林蔵が、そんな不安を少しずつ抱えていると、ついに、彼の耳元にもドーン、ドーン、ドドーン、ドコーン!!、と、ロシアの大きな帆船から、砲の轟音がなってきた。裏山の茂みを登って途中、こっそりと沖の方を見ると、かなり遠くだが、函館で見たどの和船よりもはるかに大きそうな帆船が停まっていた。

 まだ空砲のようだが、あまりの音の大きさが続き、強気な気持ちをとりつつも内心は林蔵自身、恐怖で震え上がりそうになる。先ほどから、誰もが青い顔で、中には極度の緊張から震えからか、用を足しに奥の茂みに行ったり戻ったりを繰り返している奴もいる。みんな、怖いんだ!。誰か早く、こっそり択捉から函館に急いで伝令に行けば、やがて函館から援軍が来るに違いない。でも、それまで、ここで耐えれるのだろうか。援軍がくるまでにどれくらいかかるだろうか?、もうすでにロシア船が来ているし、今は一船だけのようだが、相手だってもっと増えるかもしれない。シャナは択捉島でもずっと奥の会所だし、もう先は実質、ロシアの領土とも言えるウルップ島だ。細長いこの島の中で、きっと戸田たちは退却を決めるだろう。ナイボにロシア船が泊まり、ロシア人が上陸したと聞いた時は、まだ戸田たちを笑えたが、俺だってシャナを退却するのはわからないでもない。

 しかし、ろくに戦わず逃げて、それから択捉島の最大の駐兵の拠点とも言えるシャナの会所も奪われて、択捉島から国後島に逃げるとなれば間違いなく、幕府の命令にそむいたとして、筆頭の戸田は勿論だが、武士なら皆、厳罰を受けることになる。下手すれば、切腹だ。幕府が許してくれるはずがない!!
 どちらにしても下手すれば死は免れないとは嘆きたくなる。ならば、ここは、やはりあくまでも少しだけ引き、食糧を持って森の中に潜み、夜になってからこっそり松明をつけず(月光)の明かりを頼りに夜襲をかけるというのが、とにかく防備で来ている藩兵にしても、本格的に退けば重罰は免れないだろうから、一番いいだろう。仮に討死にしても武士としての名誉は残るし(英雄)だ、でも、俺なんて一人っ子だからやはり死にたくないな、でも、こうなったのも先祖代々の畑を継がずに出たのだから(運命)だと仕方ないと思ったりしていると、急に故郷の川の近くの(田園)が目に浮かんできて、ここで死ねばやはり(悲愴)だ。本当、戦っても逃げても苦しく、まさに(大苦、だいく)ともいえる。一人であれこれ悩んでいると、ついに、協議が終わったらしく、その協議に参加していた中で、以前、蝦夷地の測量時に知り合った御雇医師の久保田見達の姿を見かけ、思わず尋ねた。

「久保田様、我らはやはり戦うのでしょうか?」

久保田は答えた

「いや、まだロシア側が実弾を発砲しないでいるなら、こちらから何もするなとの応せである」

「ロシア側を刺激したくないからですか」林蔵は怪訝な表情で尋ねた。

「うむ、空砲は向こうでは挨拶みたいなものらしい、ロシアの艦がなにか書状を持ってくるのなら応対せねばならないだろうからな」

「ではもし、ロシアから発砲があったらいかがしますか?」林蔵は心配になって尋ねた。

「戸田様は我らも武装して弓矢や鉄砲の準備をせよとおっしゃっておられる」

「鉄砲だけではだめですな。大砲もあるのですから、いつでも砲撃できるようにしないと。」

「いや、実は…」久保田は困った顔をして答えた。「貯蔵庫の火薬があまりないと言うことだ…」

「どうしてですか。火薬が使えなくなっているのですか」林蔵は怒気を込めて言った。

「私も林蔵殿と同じで、普段医者として択捉島の各地を回っているから知らなかったのだが、江戸にいた頃に観た花火が恋しいと、つい暇を持て余して、何度か火薬で花火を打ち上げたらしい。先ほど協議でもそれを聞いて愕然とした」

「火薬がない…」林蔵も怒りを通り越して愕然としてしまった。

 太平ボケと言うのか、長い間、戦さなど、日本国内でもなければ、ましてや外国ともない。しかし、防備で来ているのに今や刀よりも大砲の火薬のほうがよほど大切であろう。
 久保田は続けた。

「とにかく今更文句を言っても仕方ない。我々は斬り込みも考えるし、弓矢もある。森に隠れて、酔ってるロシア人を襲撃することも考えている。」

「戸田様は斬り込みをしろと応せでしょうか?」林蔵は尋ねた。

「うーん…、あの方はどうしていいのかわからなくなっているようだ…。何でよりによってロシアが、今来るんだとか、本来なら江戸にずっといるはずが、函館ならともかく、こんな寒くてしかも何もないところに来なきゃいけないんだ、と、我らにずっとぼやいておった」

久保田の話を聞き、やはり戸田ではだめかと林蔵はがっくりしたが、戸田が自分で決めれないなら、われらが決めればいいだろうと考えた。

「ここで退却すれば、ご公儀より重罪は免れませんな。戸田様は切腹か、いずれにしても、死罪でなくとも家屋没収は免れませんぞ。我らも禄を取られて、ただではすみますまい。200人もいて何もできないとなれば、ここはやはり抗戦を久保田様からもすすめるべきでございます!」

「うむ。林蔵殿の言うとおりじゃ。しかし、戸田様がどうしても退却を仰せになれば、われらは今度逆らえば、戸田様に対し反逆したことになる。何とかしないとならんな」、と久保田も林蔵に同意しながらも、上意である戸田の決定に頼るしかないのであり、苦しい気持ちを伝えた。

 林蔵は少し考えてから言った。
「万が一、戸田様が退却を決められた際ですが、我ら二人は反対したという証拠がいただきたいですな。そうすれば、仮にご公儀から何か言われても重罪にはならないでしょうし」

久保田はこのような時、そんなことを咄嗟に考える林蔵に驚き、半ば呆れながらも、内心は感心のような気持にもなった。こいつ、よほど目の前のロシア船より、はるか遠くの江戸のご公儀が怖いのか!、でも確かにこいつの気持ち、わかるような気もするな、とも思った。
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コメント

1. 無題

林蔵は逞しいですね!
この後の行動がどのようなものなのかとても楽しみです!

会話の中にそれぞれの思惑があり、登場人物に魅力を感じます。

プロフィール

作者:福田純也
福田純也
性別:男性
男性

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