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 林蔵、奥の道未知!をいく

 江戸時代の探検家、間宮林蔵を題材とした小説です。

その九

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その九

久保田は、もともとは備中(岡山)松山藩の藩士であったが、医術に興味を持ち、医師になった変り種であった。
しかも皆が嫌がる寒い蝦夷地へ進んでいくことから、似たような境遇の林蔵と蝦夷地のシャナイ(静内)というところで会うと互い親しくなり、それから互いに択捉島へと派遣され、つい先日、シャナの漁場で再会した。

「林蔵殿、まだロシアの艦は来たばかり、様子を見よう。ロシアがわれらを攻めるとは限らぬ」久保田はそう言うと自分の持ち物である武具の取り出し、弓矢を触ると、続けて言った。

「林蔵殿の言うとおり、森に一旦引き、敵を引き付けるのもひとつの手であろう。林蔵殿も弓矢は持っておるかな。」

「いいえ。私は持っておりませぬ。もともと、測量のために派遣されておりますし、久保田様と違って武道は全くやっておりませんので。」

「おいおい、それではそちこそ退却せねばならないではないか。」久保田は思わず苦笑した。

「確かに私は測量や農業しかわかりませんが、アイヌ人に化けてロシアの兵士が酔いつぶれたらやっつけようか、と考えていました」

「ロシア人は6尺(180cm)もあるらしいし、普通に戦っても勝てないだろうが、原住民のアイヌが相手なら、あいつらも多少は知ってるだろうから酒を飲んで油断するかもな。そちはアイヌの言葉も達者だしな」と久保田は言いながらも、
「それにしてもよく武道をやったことがないのに戦うなどと言えたものよ」と続けた。

「いえいえ、武道がなくても戦うと言う気持ちが大切です。考えてください。もし江戸のご公儀から、択捉から全員退却せよとの上意があれば、私も抗戦などと決して考えませぬ。
実のところ、私は、ただ我々を威嚇しているのか、ホントに攻撃してくるのか、まだよくわからないロシアの攻撃よりも、必ずある御公儀からの咎めが怖いのです。それに、元百姓の私でさえ戦うと言えば、実際、警備のために来て、本来、戦わないといけない藩兵は退却など恥さらしな真似はできないでしょうから。」林蔵は、言いながら少し笑みを浮かべて、後は黙った。

  まもなく、帆船から、ボートがやって来た。ボートが岸に着くや、ロシアの水兵が海岸に降りて来て、いきなり発砲を始めた。

 海岸に残っていた見張りの藩兵があわてて逃げようとしたが、撃たれてまもなく絶命した。
 戸田又太夫他、林蔵たちも含めた200人は、すでに近くの森に、武具をつけて避難していた。ロシア人は遠くから見たところ、数人だけのようであるが、やはり大きく、なんとなく、森の中で、突如、ヒグマに遭遇したような気もしてきた。
 それで戸田は剣の巧みなものを数人選び、日本刀で斬り込みをさせようところみたが、あっという間にロシア水兵に見つかってしまい、鉄砲で撃たれ全員、何もできず討ち死にした。どうやら、日本で使用されている火縄銃と違って、すぐに次の弾の発射準備もできているように見えた。
   
 戸田はその光景を見て、益々怖くなり、全員山中から裏の船着場に入り、そこからこっそりと退却しようと言い出した。
 それを聞いた久保田と林蔵は戸田の前に出て反対を唱えた。

 「まだ我らは200人もいて鉄砲や弓矢だってあるのにもう退却するのですか」林蔵は憤りを感じて叫んだ。
「黙れ!お前は測量に来たのだろうが。素人のくせに」戸田は言い返した。

「たしかにおっしゃるとおりでございます。しかし、ここを退却すれば、後で御公儀からのお咎めは免れません。どうせ死ぬならば、ここで戦うべきです」

「ここを引いたからと言って、御公儀は我らを罰したりはしない。また援軍が来れば、一緒にここに来て戦えばいいのだ。無駄に命を投げ出すことはない」

「しかし」と林蔵が言いかけると、戸田はいかにも迷惑そうな顔をして林蔵の言葉を打ち消すかのように口を開き、「やかましいぞ、この百姓が!!。お前は武術はできないだろうが!、ちょっとアイヌ語ができるからといい気になっておる。百姓の分際で生意気な!。ここでは皆のため、米を作る百姓らしく、飯炊きでもやってろ!、それとも、あれか!測量やっているから、飯炊きすらも忘れたか、この成り上がりが!」と叫んだ。
 
 林蔵は怒りに震えて歯をぐっとかんだ。周りの藩士も医師の久保田以外、戸田と同様にここはさっさと退却しようという空気があるように感じられ、林蔵も諦めながらも少し黙っていたが、 
「わかりました。ならば、私は、ここに一人残り現地のアイヌ人たちと共にロシア兵の動向を調べとうございます。夜に弓矢で射るならば、音もしないし、あれくらいなら倒せるのではないでしょうか?」と何とか伝えた。

「だめじゃ。お前も同様、全員退却するのだ」
 戸田はきっぱりと言った。

「ならば、私と久保田様の二人は退却に反対したという証文を書きます由、それにご署名いただけますでしょうか。それがあれば、お裁きを受けても助かりますし」

「黙れ!!、強情なやつめ。お前こそ要らぬ心配をしすぎだ。ロシア兵こそが敵であるのに、恐れ多くも、さっきから聞いていれば、御公儀、御公儀と。御公儀を恐れてばかりとは無礼であるぞ!、飯炊きもできぬ百姓めが!。上陸したロシア人の他に、もっと敵がどんどん上陸してくるに違いないし、夜には交代で別の兵がたくさん来るかもしれないだろうが!。ここは援軍が来るまでいったん引いて待てばよいのだ」と言い放つと、もう林蔵の相手をしないで退却命令を発表した。
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作者:福田純也
福田純也
性別:男性
男性

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