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 林蔵、奥の道未知!をいく

 江戸時代の探検家、間宮林蔵を題材とした小説です。

その十

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コメント

1. 無題

戸田との争いが思わぬ形で終わりましたね

物語序盤の大きな人だっただけに惜しくもありますが、人の死によって残された人々がどう影響し
どう動くかとても楽しみにしています。

登場人物が人らしく生きている様がとてもリアルですね!

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その十

飯炊きもできない百姓めが!と言う戸田の言葉は、林蔵の心に奥深くグサッと突き刺さった。

 結局全員、直ちに移動となった。移動と決まったら、林蔵も久保田に付き添われるような形で渋々歩くこととなった。

 ただ、林蔵はわざと準備を遅らせていた。彼自身、アイヌ人の服も持参していたし、もしできることなら、いつでも変装しようと思っていた。
 また、久保田も医師であるという立場上、最後尾に移動を始めたが、すでに多くの藩兵はとっくに移動していて、残ったのは林蔵を含め20人しかいなかった。

 すると、ロシアの水兵が発砲した銃声が山の近くまで聞こえたので、一行は急いでみな逃げ出した。林蔵も一人残ってアイヌ人に化けることは禁止されていたし、彼自身もさすがに怖くなって他の者について逃げ出した。
 原住民のアイヌ人が狩りをしたりする時に通った道、正確には、道と言っても、まだきちんとできていない藪の中の獣道、林蔵も仲間とはぐれないよう歩みを進めた。
 進めながらも、退却を決めた戸田又太夫に抗議したばかりに多くの人が見てる前で侮辱されたことが悔しく、悔しさのあまり涙が止まらなく何度も視界が妨げられ、迷いそうになった。
だが、次にこんなことも思った。多くの者が見ている前で反対したのだから、皆が証人だ。他の人は、ともかく自分は罵倒されながらも戦うことを主張したわけだし、久保田様もわかっているから、罪を免れるかもと思った、いや、無理にそう思おうとしている自分がいた。
 
 やっとのことでロシア兵やロシア艦のいない海岸にたどり着くと、もう太陽は沈みかけていた。ここから、以前から停泊していた十数艘の小舟に乗り、こっそりと、夜中、国後島へ退却することになっていたが、突如、思いがけない知らせが林蔵たちの所に届いた。何と、戸田又太夫が自害したとの知らせであった。

 「何!戸田様が…。それは誠か!」医師の久保田が伝達に来た足軽に向かって思わず尋ねた。

「は。戸田様は、いよいよ船が出る時にご自害されました」足軽は涙をこらえてこたえた。
 
 最後尾を歩いた林蔵もこの知らせを聞き、すぐに追い着いて戸田の死骸を見つめた。先程まで責任者として自分たちの前で退却を正当化しているように見えた戸田も、わずかなロシア兵の前でロクに戦いもせず逃げたことで後悔したのかもしれなかった。

 彼の命令と言うことで、200名ほどの警備の藩兵は、我先に退散してしまい、そこに林蔵の言った、御公儀からの厳しい吟味とお咎めという言葉で、逃げながらも、急に恐怖の気持ちになり、早々と退却命令を出したことを後悔したに違いなかった。
   自身が切腹するだけならともかく、家族にも罪が及ぶことも十分ありうるし、ひどい場合、先祖から受け継がれた武家としての家も取り潰しになる。そんなことを考えているうち、自ら命を絶ったに違いなかった。
 
 林蔵自身、俺、もしかして、余計なことを言ってしまったのかな、と、思い始めた。戸田にしてみれば、逃げるのも(みんなでやれば怖くない!)という心境だったのに、俺がうるさく反対したせいで内心、お咎めを受けることがだんだんと怖くなったにちがいないような気がしてきた。あの場で退却に反対せず、他の兵と共におとなしく退却していれば、あとは、ご公儀の取り調べの際、あの時、ロシア艦の砲撃があまりにもすごかったから、一時退却した、と、全員で、言い逃れできたかもしれないような気までしてきた。
 
「大勢の前で反対して俺に恥をかかせやがって、俺が死ぬのはお前のせいだ。林蔵!」と、戸田の死骸から何だか言われているような気までして、早くこの場を立ち去りたくなった。
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コメント

1. 無題

戸田との争いが思わぬ形で終わりましたね

物語序盤の大きな人だっただけに惜しくもありますが、人の死によって残された人々がどう影響し
どう動くかとても楽しみにしています。

登場人物が人らしく生きている様がとてもリアルですね!

プロフィール

作者:福田純也
福田純也
性別:男性
男性

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