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 林蔵、奥の道未知!をいく

 江戸時代の探検家、間宮林蔵を題材とした小説です。

その五

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その五

また、江戸に残って村垣の指示を待っていたが、突然村垣は亡くなった。
 自分をすごく頼ってくれた村垣の死はショックであった。林蔵も自分はここが潮時と思い、そろそろ隠居して、田舎で両親の墓を守ってひっそりと暮らしたいと思ったりした。

 だが天保3年、今度は国内で問題が発生した。各地で一揆がおこり、江戸近郊でも米価が上がって庶民による豪商への打ちこわしもおこった。そして翌年もひどかった。そんな状況になると、林蔵は一人で考え込むことが多くなっていった。
 今さら農民を捨て武士になったのに、故郷にもどるなんてできないと林蔵は思いなおした。思えば、農民の子ながらも10代で武士の弟子になってから、毎年稲作に田んぼへでたこともない。エゾで若い頃、アイヌ人に畑作を指導したことがあったが、仮に失敗しても、もともと彼らは狩猟民族、責任のない業務であった。
されに隠居したとしても、武士として故郷で一人、村人から敬遠されて暮らしにくいし、だからと言って農民にもどっても、ゆっくりとはできないだろう。やはり、田舎では老人でも老人なりに毎日、田畑にでて必死に忘れかけた百姓仕事をやらねばならない。はたして、できるだろうか。死んだ両親にしたって、父親は生前、林蔵から百両もらっても、やはりきちんと田畑にでていたようであった。息子の彼が、郷里に帰って働かないなら、まわりからシーボルト事件で上司を売って出世した狗はさすがにお金があるから良いね!とか、何を言われるかわからない。

 "石隠す ならばやっぱり 砂利の中 雨風吹いて さらに同化し"

 うーん、俺はまたへんな歌を詠んでしまった、と林蔵は、そう思いながらも、結局、人が多い江戸に紛れようと思った。
 それに林蔵は最近、農民が稲作以外の作物を植えて、現金収入を得ようとしていることに関して多少は必要であるし仕方ないが、これがいきすぎて口実をもうけ田畠をつぶしている農家も多数いたことも気になっていた。
 幕府から林蔵、何かよい案はないか?ときかれ、やはり米こそが主食であるから、エゾのような稲作の不敵な土地は除いて、それ以外の平地での稲作を、許可なく勝手に畑にすることは躊躇なく厳しく取り締まるべきと言う上申書をだしていた。

 林蔵はある意味、まじめにとりくんだが、こんな上申書を出した男がもう農村で百姓に戻れるわけがなかった。

 本当に俺という男は、年貢や稲の凶作に苦しんでいる農民の事情を考えず、すっかり幕府の狗になったなと思うこともある。だが、もう内心、心のどこかで、隠居しても故郷で農民はやれない、俺は勇敢に北の奥に命をかけた侍だ、幕府のために、たとえ狗と陰口をたたかれようとも生きるのが士道だと、すぐに思い直した。
 そして、村垣様は亡くなったが、おれは幕府の人間であるから、やれるところまでやるしかない、と半ばあきらめながら、もう一人の自分はしっかりと任務に向け準備するのであった。
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プロフィール

作者:福田純也
福田純也
性別:男性
男性

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